『クリムゾン・タイド』(トニー・スコット)

DVDで。これからしばらくトニー・スコット作品を集中的に観ようと思っています。わたしがトニー・スコットの名前をはっきり意識し始めたのは恥ずかしながら比較的最近、『エネミー・オブ・アメリカ』からのことなのですが、それ以前の監督作品もだいたい公開当時に観ています。『ドミノ』の衝撃も記憶に新しい今、観逃していたものも含めてそれらをまとめて振り返っておこうというわけです。
この『クリムゾン・タイド』も公開時に劇場で観ていて、観直すのはそれ以来のことになります。ちょうど10年ぶりですね。デンゼル・ワシントンジーン・ハックマンに初めて会う場面と前半の潜水艦内での食事の場面、いずれも実に見事な演出です。こういうシーンがしっかり作られていると、その後の展開も非常に充実したものになります。この映画の一番のおもしろさは後半の「往復と反復」にあります。まずジーン・ハックマンが部屋に監禁され、デンゼル・ワシントンが代わりに指揮を執るのですが、しばらくして謀反を起こした士官たちの協力でジーン・ハックマンが艦の指揮権を取り戻し、今度は逆にデンゼル・ワシントンたちが監禁されますがすぐに助け出される、といった指揮権の往復と司令室・監禁場所の往復だったり、核ミサイルの発射をめぐる司令室とヴィゴ・モーテンセンの部屋の往復だったり、訓練時から反復される緊急無線受信時の手続きだったり、艦長の指令を復唱する副艦長の役割だったりと、さまざまな「往復と反復」が描かれます。敵の潜水艦から発射される魚雷と撹乱用の魚雷、さらにこちらから敵艦に向けて放たれる魚雷、という魚雷の往復・交換も、この主題に沿っていると言えるかもしれません。
ところでこの映画では核ミサイルは結局最後まで発射されず、核戦争の危機は回避されます。前年(1994年)に公開された『トゥルーライズ』(ジェームズ・キャメロン)では核が爆発し、1997年の『ピースメーカー』(ミミ・レダー)あたりからは核の爆発がなんの緊張感もなく描かれることになるのですが*1、そのことの善し悪しはともかく、そういう流れのちょうど境目の時期にあって、『クリムゾン・タイド』における「核ミサイルが発射されないこと」をめぐるサスペンスは、やはり貴重なものだったように思います。

*1:『ステルス』(ロブ・コーエン)でも、暴走した人工知能の仕業という言い訳のもとに、あまりにもあっけなく核弾頭が爆発していましたね。