『山猫は眠らない』(ルイス・ロッサ)

DVDで。初見。これは実にすばらしいです。脚本も演出も見事に組み立てられています。冒頭の狙撃シーンも、中盤の尾行者を返り討ちにする場面も、終盤の農場のシーンも、巧みに構築された空間、伸縮自在な距離によってサスペンス豊かな持続が生みだされています。「見る」ことがすなわち標的の死を意味するのが狙撃という仕事であり、ビリー・ゼインが照準器の中のトム・ベレンジャーの像を眼にして思わず「美しい」とつぶやくとき、正しく「見る」ことを習得したビリー・ゼインはそのことの残酷さに我を失っていて、トム・ベレンジャーが落ち着かせるために口にする「大丈夫、まだお前はうちに帰れるよ」という言葉も、しょせんは空疎な響きとともに中空に消えていくしかありません。ベレンジャー自身もまた故郷を失っており、正しく「見る」ことを経験した彼らは、もうすでに後戻りできない地点まで来てしまったのです。