見城徹『編集者という病い』(太田出版)

編集者という病い

編集者という病い

幻冬舎社長の見城徹が自身の編集者人生を振り返って書き下ろした(もしくは語り下ろした)自伝のようなものだとばかり思っていたのですが、過去にさまざまな媒体で掲載された雑文・エッセイ・インタヴューを一冊にまとめたものでした。
 
(文芸)編集者は小説家(ミュージシャン、エッセイスト、俳優etc…)に付き添って書籍や雑誌を作り上げるためのサポートをするのはもちろんのこと、当面の仕事とは直接関係のない日常の諸事について手助けをしたり、悩みを聞いてあげたり、時には生活をともにすることさえあるようです。このような関係性を仮に「密着」attachmentと呼びますが、しかしそれだけでは仕事として十分と言えず、それと同時にdetachment、それまでずっと肉親や伴侶のように寄り添っていた相手(対象)からある時すっと身を引き離すことが必要なのだと思います。単に対象にぴったりくっついているだけでも、反対に高みに立って大局を眺めるような振舞に終始するだけでもだめで、このふたつの相反することを、無理なく同時にやってみせるものこそが有能な編集者と呼ばれるのでしょう。
一見小説家やミュージシャンとの「密着」attachmentの日々だけが熱く語られているかに見えるこの本にも、detachmentの側面は描かれていて、「白」と「黒」として語られもするそれらふたつの要素の入り混じった「グレイ」こそが重要なのだと、明確に語られてもいます。