『4匹の蝿』(ダリオ・アルジェント)

シアターN渋谷にて。
 
以前から観たい観たいと願っていた『4匹の蝿』。ダリオ・アルジェントの最良の仕事とは言いがたいものの、初期アルジェント作品に特有の力が抜けるような笑いの感覚*1と暴力的な場面における強烈なイメージが交互に立ち現れる、インパクトのあるフィルムでした。わたしとしては、ラストの名高いスローモーションの場面をスクリーンで観ることができて、大変満足しています。
 
この映画もまた、アルジェント的な主題群(「首の切断」「抑圧」「動物」「部屋」etc.)に隅々まで満たされています。主人公の職業は『サスペリアPART2』同様ミュージシャンなわけですが、彼が自分を尾行する(=見つめ続ける)人物をふとしたはずみで殺してしまい、その現場を誰かに目撃されることから物語が始まるという意味で、『サスペリアPART2』とは逆のかたちが採用されています*2。その後も犯人はどこからか主人公を監視し、精神的な苦痛を与え続けるのですが、両者の立場が逆転するきっかけを作るのが、死者の目玉を取り出して最後に目撃した映像を映し出す装置であり、そしてその装置がまさに映写機と同様の機能を有している*3ことを考えると、『4匹の蝿』で語られているのは、殺人シーンという「映画」に立ち戻りそこに映し出されたイメージを(再)発見することで主人公が真実にたどり着くというダリオ・アルジェント的な物語であると言えるでしょう。
 
空間設計も相変わらず見事で、主人公の奥さんのいとこが殺される場面の屋根裏部屋みたいな空間も実によかったですし、ラストの「部屋」は『シャドー』の最後に出てくる借家のダイニングキッチンを想起させ、これまたすばらしかったです。

*1:郵便配達夫との確執や「神様」と「教授」のコンビ、事件解決率0%のおかま探偵など。特にゴダールを髣髴とさせる「教授」が葬儀屋であれこれする様は観ていてとてもおかしかったです。ところであの郵便配達夫とポルノ雑誌を講読している隣人のエピソードはいったいなんだったのでしょう。

*2:サスペリアPART2』では主人公のほうが殺人の場面を目撃します。

*3:目玉(=フィルム)に光線を当てて前方にイメージを投影する仕組みになっています。