『ドゥー・ユー・ライク・ヒッチコック?』(ダリオ・アルジェント)

DVDで。『デス・サイト』以来となるダリオ・アルジェントの新作。テレビシリーズの1本として企画されたもののようです。ヒッチコック作品をあれこれと引用しつつも、できあがった映画はヒッチコック作品とは似ても似つかないものになっているわけですが、これはヒッチコッキアンの誰もがはまる罠というより、もともとヒッチコックとは全く違う資質の持ち主であるダリオ・アルジェントが、いつも通り彼の撮りたいものを撮ったということでしかないと思います。だから主人公の母親も、ヒッチコック作品からの引用である以前に、ダリオ・アルジェント作品における母親の反復なのです。物語の本筋とほとんど関係のない冒頭の(魔女の儀式かなにかの)「目撃」体験から映画学生である主人公が「見る人」となることもまた、ダリオ・アルジェントが過去の作品で繰り返し描いてきたモチーフです。
のぞき見に気づかれた主人公がベランダから飛び降りた際に足をくじいて、その足を引きずりながら土砂降りの雨の中を逃げる場面があって、スクーターが動き出して距離が開きそうになると、のぞきをされたサミュエル・L・ジャクソン似の社長が追いかけるのをなかばあきらめて走る速度を落とし、するとスクーターが横転して、倒れ込んだ主人公が怪我の痛みにうめき声をあげながら必死に車体を起こそうともがき、それを見た社長がまた走り始める、という繰り返しをえんえんとやるあたりの、奇妙に引き延ばされた時空間がおもしろかったです。
一点気になったのは、ラストで殺人犯の女がマンションの屋上から落下しないことです。これまで何人もの悪人を落下させてきたダリオ・アルジェントが、ここへきて落下を選ばなかった理由はなんなのか。あるいは逆に、落下しないから彼女は悪人ではない、とも考えられますが。