『シャドー』(ダリオ・アルジェント)

DVDで。
 
サスペリア』(1977)、『インフェルノ』(1980)、『シャドー』(1982)、『フェノミナ』(1984)、『オペラ座/血の喝采』(1987)と続くもっとも脂の乗り切った時期に作られた映画であり、いびつでひずんだ異形のフィルムとなっています。その異様さは、主要登場人物がひとりを除いて全員死んでしまうという物語にも端的に表れています。小説家が殺人事件に巻き込まれるという物語だけを取り出すと、監督デビュー作『歓びの毒牙』に近いと言えるのですが、古典的な約束事をきちんとふまえた『歓びの毒牙』の比較的端正な作りにたいして、『シャドー』における演出は物語を語るという目的を大きく逸脱し、ある種の奇形と化しているのです。比較として適切さを欠いていると言われてしまいそうですが、わたしはこの映画を観るたびに『雪の断章 情熱』(相米慎二)を思い出してしまいます。
 
この映画もまた全編にわたって「トラウマ」「動物」といったダリオ・アルジェント的主題に満たされています。ラストの借家のダイニングキッチンはまさにダリオ・アルジェント的な「部屋」であり、あののっぺりとした平板な空間において次から次へと人が死んでいくさまを見ていると、殺人鬼の正体が明かされることで得られるカタルシスなど跡形もなくかき消されてしまいます。もうひとつの「部屋」、テレビ書評家の家のリビングルームで起こった殺人場面を目の当たりにして、登場人物のひとり(と観客)は『サスペリアPART2』や『トラウマ』においてそうだったように、真相を目撃していながら物語を取り違えることとなります。
 
さて、これで手持ちのダリオ・アルジェント作品はすべて観終えました。何度も同じことの繰り返しで芸がありませんが、『サスペリア・テルザ』のDVD発売と同時に、『オペラ座/血の喝采』や『4匹の蝿』『ビッグ・ファイブ・デイ』あたりもぜひDVD化していただきたいものです。
(6/11追記)