『デーモンラヴァー』

吉祥寺バウスシアターのレイトショーで『デーモンラヴァー』(オリヴィエ・アサイヤス)。boid企画の爆音上映。この映画を観るのはこれで3回目です。ソニック・ユースによるサウンドトラックの重低音が身体をビリビリふるわせるのが心地よく、呆けたようになって、映像と音響に身を任せていました。次から次へと物語のフェイズをスライドさせていく語りの中にあって、もともと実体を持たない(名前も経歴もすべて偽りのものである)企業スパイのコニー・ニールセンは、ますます実体から遠のき、最後はネットを通じて全世界に拡散していくわけですが、重要なのは、様々なかたちでのヴァーチャルなるものが世界を覆い尽くしている、というような現実認識ではなく(そんなことはすでに言い尽くされていることです)、物語の構造が重層化を繰り返しつつ、自らを支えるすべを失ってなし崩しに崩れていくさまであり、(大げさな言い方になっちゃうけど)そのような失調を通してしか21世紀の映画は作られ得ないという認識なのです。それにしても、大雨の中、コニー・ニールセンの運転する車にクロエ・セヴィニーが乗ったり降りたりするあの一連のシーンは、やはり何度観てもすばらしい…
 
上映前にあった青山真治樋口泰人によるDJトークは、群像最新号に掲載されている青山真治の新作小説『死の谷'95』と、いまだ実現していない同名の映画作品のサウンドトラックというかたちで、ソニック・ユースレジデンツ、ペル・ウブ、レッド・ツェッペリンの曲をかけるという趣向でした。『死の谷'95』というタイトルはもちろんソニック・ユースの初期の名曲“Death Valley '69”から来ているのですが、1969年のシャロン・テート事件と1995年の地下鉄サリン事件とを重ねつつ、リメイク、カヴァー、現実と非現実、歴史の反復、といった主題が展開される小説(映画)だとのことでした(まだ読んでないのです)。しかし爆音で聞く“Death Valley '69”は何とも言えず感動的で、最近でもライヴの最後の方で必ずやるこの曲を含めて、ソニック・ユースの初期の曲には聴くものの想像力を刺激するところがあって、青山真治がこのタイトルの元に映画の企画を立て、小説を書くという感覚は、(こういう言い方は適切ではないかもしれないけれど)非常によくわかると同時に、トークの中ではオリヴィエ・アサイヤスについていっさい触れていませんでしたが、『イルマ・ヴェップ』と『デーモンラヴァー』でソニック・ユースを鳴らしてみせたアサイヤスと青山真治が、同じ感覚、同じ問題意識を共有しているということが、あらためてよくわかったのでした。
 
ということで、帰宅後これを書きながらずっとソニック・ユース聴いてます。『デイドリーム・ネイション』とかすごすぎ。