『一人息子』(小津安二郎)

DVDで。十数年ぶりに観たのですが、これほどまでの傑作だったとは、以前は全然実感できていませんでした。今さらながら衝撃を受けています。日守新一が歩くときの、ちょっと肩をすぼめて腕を突っぱったような窮屈な姿勢の後ろ姿が非常によくて、そしてなによりあの帽子*1なのですが、小津のいくつかの映画では帽子が印象的に用いられていて、例えば『東京暮色』では、冒頭の場面で笠智衆が行きつけの飲み屋に入ると娘婿の信欣三が忘れていった帽子が店の壁に掛かっています。
日守新一の住む東京の家ではパッタンパッタンという音が時に大きく時に小さく響いていて、一方信州の飯田蝶子が働く工場でも機械のまわる規則的な音が聞こえ、これらの音が作品の基調をなしています。以前boidの爆音上映トークショー岸野雄一が『秋日和』における時計の音のon/offを指摘していましたが、小津作品における単調な機械音は、小津にとっての初のトーキー作品である『一人息子』においてすでに出てきているのです。

*1:あれは中折れ帽と言うのでしょうか、帽子に詳しくないのでよくわからないのですが…