『怪異談 生きてゐる小平次』(中川信夫)

赤坂の国際交流基金フォーラムにて。
本当に恥ずかしいことなのですが、わたしは中川信夫の監督作を今日まで1本も観たことがありませんでした。何度かチャンスがあったのですけれど、『東海道四谷怪談』も『地獄』も未見なのです。ということで、今日のこれが中川信夫初体験。そういえば成瀬巳喜男と同じく1905年生まれの中川信夫、今年が生誕百年なのでした。
78分という短い尺のなかに豊かなイメージが息づく、実にすばらしいフィルムでした。とても77歳のベテラン監督の手になるものだとは思えないほどの若々しさに満ちています。なんといっても水、そして赤の色が死を招き寄せるのですが、そこに宮下順子と来れば、どうしたって『赫い髪の女』(神代辰巳)を想起しないわけにはいきません。その水にしても赤にしても、単にイメージとしてちりばめられているだけではもちろんなくて、例えば不意に割られる西瓜がそうであるように、画面に運動を導入しているのです。冒頭に宮下順子が湯浴みしている場面がありますが、川や滝や沼といったいくつもの水は、彼女が呼び寄せているようにも見えます。そしてラスト、賽の河原に立つ宮下順子の耳に鈴の音が聞こえ、巻き付けた白い布の下から現れた小平次(藤間文彦)の顔は、とても「生きてゐる」ようには見えず、まさに生き霊で、しかしそれでいてどこか寂しげでもあるのでした。