『二人妻 妻よ薔薇のやうに』『朝の並木道』(成瀬巳喜男)

東京国立近代美術館フィルムセンターにて。どちらも今日が初めてだと思いこんでいたのですが、『二人妻 妻よ薔薇のやうに』は昔一回観てました。観たことすら忘れているっていうのはいくらなんでもひどいなぁ、と我ながら呆れ果てております。それにしても一体いつ観たのか…
今日はことさらに具合が悪くて、頭痛と眼の痛みをこらえながらの鑑賞だったのですが、どちらも傑作で、無理して観に来た甲斐があったというものです。『二人妻 妻よ薔薇のやうに』の、父親(丸山定夫)が暮らす田舎家の二階の窓からすっとキャメラが外に出るタイミングには、登場人物が視線を向ける先が映画的空間としての実質を伴った広がりを持つという設計を眼にすることができますし、冒頭のシーンでは口笛のメロディーでキャメラをオフィスの外に移動させ、藤原釜足の家では小鳥の鳴き声を響かせるなど、音響によって空間の広がりを巧みに作り上げています。
『朝の並木道』でも空間の広がりはさまざまな音響によってもたらされます。それから、カフェの前に流れる小川とそこに架かる橋が、千葉早智子と大川平八郎の出会いの場となるのですが、そこで千葉が酔った大川に頼まれてグラスの水を持ってくるというところがなんとも言えずすばらしいです。ふたりは別の橋でも偶然出会いますが、その後千葉が酔って見た夢の中で、警察に追われたふたりが山の中を逃げまどう、そのふたりの上に降り注ぐ木漏れ日が、これまた実に美しいのでした。