『ヴァンダの部屋』(ペドロ・コスタ)

アテネ・フランセ文化センターにて。「山形国際ドキュメンタリー映画祭2005前夜祭」の一本。グル・ダットとどちらに行くかさんざん迷った末にこっちにしました。昨年と一昨年ほとんど映画を観なかったせいで、ペドロ・コスタグル・ダットもすっかり観逃していて、その後も何度かあった機会をことごとく逸して今日まで来てしまったのですが、本日ようやくこの作品に接することができました。
話には聞いていましたが、これは強烈なフィルムですね。光の美しさと音響の凶暴さが言葉に言い表せないほどすばらしくて、特に音響については、ヴァンダの咳やショベルカーがコンクリートの壁を打ち壊す音など、耳に突き刺さってくるような強さに満ちています。そして黒人の青年が口ずさむボブ・マーリィの“No Woman, No Cry”。
他方で、腕に針の刺さる様子やライターで熱せられるアルミ箔の感触が生々しく、ヴァンダが激しく咳き込み嘔吐するさまもとても「身体的」で、観ているわたしの身体に強く迫ってくるものがあって、麻薬なしでは生きていけない彼らの生の厳しさと、そして唯一の希望であるその麻薬によって逆に彼らが自由を奪われ、禁断症状への恐怖に常に責め苛まれるであろうこと、さらに自分たちの住む場所を奪われつつある状況まで重なって、中盤以降は耐え難いほどに息苦しくなってしまったのでした。
しかし映画はそういった状況を悲惨なものとして描くわけでも、何かを社会的に告発するわけでもなく、ヴァンダとその家族、友人たちの日常と、彼らの生きる場所を、ひたすら見つめ続け、そしてそこには「映画」が紛れもなく立ち上がっているのです。
それにしても、こんなことを書き募っても『ヴァンダの部屋』の美しさには全く近づけないし、それどころかどんどん遠のいているような気すらします。とにかく機会を見つけてもう一度観たいです。