『ブレイキング・ニュース』(ジョニー・トー)

新宿武蔵野館1にて。非常に野心的な作品で、興奮させられました。銀行強盗団を追う警部補(ニック・チョン)のエイハブ船長さながらの執念がすばらしく、時に命令を無視して暴走するその妄執は、警察と銀行強盗団のあの手この手の頭脳戦と対照され、物語を大きく動かしています。犯人グループと警察双方からメディアに提供される映像を通しての情報戦というのが大きな主題ではあるのですが、例えば窓から逃げようとする人質(ラム・シュー)をめぐる視線のサスペンス(文字通りの宙づり状態も含めて)に、「見ること−見られること」の主題が集約されるあたりも、実に見事です。もちろんジョニー・トー作品を特徴づける遊戯性も、その情報戦の中に見ることができます*1。マンションという舞台設計を活かしたアクション・サスペンス演出もすばらしく、エレヴェーターの縦穴を使った銃撃戦など、充実したシーンをいくつも挙げることができるでしょう。偶然出会った銀行強盗と殺し屋が、ラストで互いに仕事を交換して命を落とすという物語(引き継がれる仕事の物語)にも心を動かされました。
(12/24記)

*1:例えば犯人グループが立て籠もったマンションの一室で、あり合わせの食材で料理を作る場面。