『ラストデイズ』(ガス・ヴァン・サント)

吉祥寺バウスシアター1にて。2回目。
ライヴ用PAによる爆音上映だったわけですが、マイケル・ピットの歌や演奏を大きな音で堪能するというよりも、それ以外の音がとても明瞭に際だって聞こえてくるのが新しい発見でした*1。例えばピットが森を歩いているショットには、扉が閉まる音やカモメの鳴き声(ゴダール!)やギターか何かの楽器によるとぎれがちな旋律や風鳴りの音や蝶つがいのきしむ音などが重ねられていて、ピットの頭の中で鳴り響いているらしいこれらの音が、フィルムを歪ませ、世界を異質な場所に造り変えます。主人公の主観に寄り添いつつもいくぶん離れた場所から事態を見つめているかのような映像に対して、音響の方では見えているものとは違うもうひとつ別の世界を構築していて、逆に映像を、最後に主人公の肉体から離脱していく「魂」の視線によるものであるかのように見せるのです。その「もうひとつ別の」世界の構築が、一回限りの方法としてこのフィルムを活気づけ、『ジェリー』や『エレファント』の単なる反復に終わらない確かな手触りをもたらしているように思います。そう言えばこの映画の主人公のモデル、カート・コバーンの作っていた音楽は、alternativeと呼ばれていたのでした。
マイケル・ピット演ずる主人公が口の中でぶつぶつ独り言をつぶやき、緩慢な動きでチーズマカロニを作り、靴を引きずる音を立てながらゆらゆらと家の中を歩き回るさまは、まるでソクーロフ作品の登場人物が場所を間違えて紛れ込んでしまったかのようです。かと思うと探偵たちから逃れるために家を抜け出し斜面を小走りに駆け下りる、そんなすべての細部が魅力的で、終わった瞬間にもう一度最初から観直したくなります。
 
ちなみにマイケル・ピットが食べていた*2シリアルはこれでした。

*1:音響デザイナーはレスリー・シャッツ。

*2:食べているところは直接描かれていないので、正確には「食べようとしていた」ですが。