『知りすぎた少女』(マリオ・バーヴァ)

DVDで。初見です。1962年製作*1の作品です。50年代の世界的な映画黄金期の遺産を背景に、脚本・演出・撮影・編集に至るまで充実した仕上がりを見せる秀作です。とにかく冒頭の展開がすごい。主人公のアメリカ人女性(レティシア・ローマン)は、飛行機内で自分にタバコを勧めた男が、イタリアの空港で麻薬の密輸容疑で逮捕される現場に立ち会い(男の持っていた「タバコ」がマリファナであったことが明かされます)、知り合いの老嬢は彼女が着いたその夜に急死、助けを求めて病院まで向かう途中でひったくりに遭ってカバンを奪われ、その際もみ合って石畳に頭を打ち付け気絶してしまい、ふと意識を取り戻したときに偶然にも殺人事件を目撃するわけですが、ここまでで映画が始まってからまだたったの12分という密度の濃さ! その後も殺人鬼の気配におびえながら真相を突き止めようとする主人公と、彼女に思いを寄せる医師とが、事件の核心に徐々に迫っていくさまが描かれるわけですが、そもそも彼女の目撃した殺人事件が頭部の強打とマリファナが原因の幻覚・妄想だったのではないかという疑念も含めて、幾重にもサスペンス的な要素が張り巡らされるかたちになっています。ラストで扉ごしに放たれた銃弾が扉に背を向けて立つ殺人鬼の命を絶つとき、それが扉に開けられた穴とそこから漏れる光線として表わされるさまは、(それ自体はありふれた演出ではあるけれど)「背後から撃つ光線」としての映画そのものでもあるのでした。

*1:1963年となっているサイトもあります。