『青春の夢いまいづこ』(小津安二郎)

DVDで。この映画では戦後の小津作品で反復される主題の萌芽を見ることができます。なかでも重要な「並ぶこと」の主題が、ここでは江川宇礼雄演ずる主人公を悩ませることになります。急死した父の跡を継いで社長となった彼は、彼の会社に雇われた友人たちと、以前のように対等の関係で横に並ぶことができなくなってしまうのです。冒頭の場面で応援団の仲間として横一列に並んでいた関係から、社長−社員の非対称性への変化。別の場面に即して言い換えると、入社試験の会場で、江川は社長の立場を利用して試験官になり友人たちのカンニングを助けるわけなのですが、逆にこのことで、学校では一緒になってカンニングしていた間柄だったのが、試験官−受験者の非対称性に移行してしまうのです。江川は最後には仲間たちと「並ぶこと」の関係性を取り戻し、会社の屋上に3人並んで、新婚旅行に旅立つ斎藤達雄田中絹代を見送るわけなのですが、実際のところ、本当に「並ぶこと」から疎外されていたのは江川宇礼雄ではなく斎藤達雄の方であって、実家の経済状態から友人たちと一緒に応援団をやることのできない彼は、最初から江川・大山健二・笠智衆の3人組とは違う位置にいるのです。
この作品の最後にも「暴力」は出てきますし、田中絹代がその原因のひとつでもあるのですが、ここでの彼女はとても可愛らしく、後年担わされるような「暗さ」はあまり感じられません。