『夜ごとの夢』(成瀬巳喜男)

東京国立近代美術館フィルムセンターにて。今日のピアノ(&ピアニカ)伴奏は谷川賢作さんでした。初見。あまりのすごさに圧倒されて、ただただ呆けたようにスクリーンを見つめ続けていました。それにしてもいったいどうやれば子供をああいう風に動かせるのでしょうか、栗島すみ子の住むアパートの部屋が最初に出てくる場面、窓を開けて走り回る子供があっという間にあの部屋を映画的な空間にしてしまうわけです。運動と空間設計の緊密な連携。鏡と窓の使い方も含めて、とにかくあの部屋のシーンはとんでもなくすごくて、窓の外からや玄関先など含めて細かく割られたショットの連続が、ごくごく自然に場面を描いているかに見えて、ものすごく複雑な(それでいて複雑さの印象を決して与えない)カット割りになっているあたりも、例えば『女の中にいる他人』における小林桂樹の雷の夜の告白場面を連想させられ、そういう意味では成瀬はサイレント期からすでに完成されていたわけですし、そして小津同様、すでにサイレント時代から完璧な傑作を作っていたのだということに、わけもなく打ちのめされてしまうのです。冒頭の港の場面から作品を支える海がまたすばらしく、冒頭とラストに使われる、移動する船から撮られた(と見える)移動ショットもまた、何とも言えず美しいのでした。